人生会議、してますか?
先日11月30日は「人生会議」の日でした。
「人生会議」とは何のことかご存知ですか?
国がつくっている人生会議のパンフレットからひも解いてみましょう。
「あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、また、あなたの信頼する人たちと話し合うこと」
別名「アドバンス・ケア・プランニング」といいます。
これは医療用語なので、一般の方たちにもわかりやすくしようと考えてつけられたネーミングが「人生会議」です。
で、わかったでしょうか?まだモヤモヤしますね。
「望む医療やケアって何のことだろう」
と思われる方もいらっしゃることでしょう。
人生は選択の連続
人生はそのものが大小の選択の連続です。
私たちは特に意識していない時でも「ああしようか、こうしようか」と考えています。
病気になったときにも、どのような治療をするのか・しないのか、どこで療養するのか、など多くの選択をしなければなりません。
医師の勧めに従っての選択、家族や大切な人を想っての選択、選択肢も決めるための要件も、さまざまです。
たとえば、療養の場所。
住み慣れたわが家で家族と過ごしながら療養したいと思う人もいれば、医療従事者がいつもそばにいる病院がいいと思う人もいます。安心して介護を受けたり、リハビリをしたりできる施設を望む人、「できる限りここがいい」と特定の場所を希望する人もいます。一方で「その時々の体調や事情によって選びたい」と考えるのも、ごく当たり前のことです。
どうやって決めるか。
家族や大切な人と話してみたい時もあれば、ひとり静かな場所で考えたいこともあるでしょう。
あの人に伝えてみようか、あの人に相談してみようか。あの人はショックを受けるかもしれないけれど、どう伝えようか、いつ伝えようか。
話し合う内容やその時の考えによって、話したいと思う相手もさまざまでしょう。
専門家と話し合いたいことも、もちろんあるはずです。
医師、看護師、リハビリの療養士、薬剤師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、相談支援専門員、ヘルパー、あるいは保健師や民生委員、お子さんや若い方なら学校・教育関係者など、いろいろな人の顔が思い浮かぶでしょう。
決めなくてもいいから、話してみよう
でも、忘れないでください。
人生会議で一番大切なのは、あなた自身の「ああしようか、こうしようか」です。
決める・決めないとは別に、「ああしようか、こうしようか」は、既にあなたの中にもあるはずです。
実は決めることは二の次三の次。むしろ「決めなくてもいいから、いっぱい話をしよう」が人生会議なのです。
医療についていえば、多くの方が、ご自身や家族・大切な人の治療について話し合った経験をお持ちだと思います。
そのとき「果たして何が、自分や家族や大切な人にとって一番いいことと言えるのだろう」と話し合ったり、頭や心を悩ませた経験はありませんか。
厚生労働省の「ゼロから始める人生会議 もしものときについて話し合おう」というウェブサイトには、このように書かれています。
あなたの希望や価値観は、あなたの望む生活や医療・ケアを受けるためにとても重要な役割を果たします。
誰でも、いつでも、命に関わる大きな病気やケガをする可能性があります。
命の危険が迫った状態になると約70%の方が、これからの医療やケアなどについて自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなるといわれています。
もしも、あなたがそのような状況になった時、家族などあなたの信頼できる人が「あなたなら、たぶん、こう考えるだろう」とあなたの気持ちを想像しながら、医療・ケアチームと医療やケアについて話合いをすることになります。
その場合にも、あなたの信頼できる人が、あなたの価値観や気持ちをよく知っていることが、重要な助けとなるのです。
病気は人生に大きな影響を与えます。しかし病気が人のすべてではありません。
人には生活があり、自分や家族や大切な人に対する思いがあり、積み重ねてきた人生があります。
「もしもの時」を考える時は、病気のことだけではなく、人生そのものに思いを馳せると思います。
「人生会議」の主題も、実はそこにあります。
生き切るために話し合う
ちょうど一年前、厚生労働省があるタレントさんを起用し「人生会議」の啓発ポスターを作ったところ、内容に対して患者団体などから抗議の声があがり、ポスターの公開が中止されるという出来事がありました。
ポスターでは病衣を着て横たわったタレントさんが、青ざめた表情で、人生が終わろうとする瞬間の後悔を演じています。
「命の危険が迫った時、想いは正しく伝わらない」
「こうなる前に、みんな『人生会議』しとこ」
という文が添えられていました。
このポスターでは「人生」というよりも「死」が強調される印象や、脅されるような印象を受けるという意見もありました。
しかし、このポスターはタレントさん本人が、大切なご家族を亡くされた経験から着想を得たといいます。すると、ポスターの見え方も少し違ってきます。
この出来事ののち、医療・介護現場などでは、日々患者さんや利用者さんの人生会議に向き合っているひとたちが、自主的にポスターを作ってSNSなどで公開するという「人生会議勝手にポスター」という動きが広まりました。
在宅医療に深くかかわり国内の「人生会議」の議論を深めてきた、紅谷浩之医師(医療法人社団オレンジ)が作成したポスターには、40代で進行がんと診断された男性と、その娘さんのエピソードとともに、こんな文章が書かれています。
どこで死にたいか、病気になった時どうしたいか。
そんな話ばかりしなくていい。
何が好きか、何を大切にしているのか。
決めなくてもいいから、いっぱい話をしよう。
別のポスターでは、酸素チューブを着けた小さな女の子の、満面の笑顔の写真が掲載され、次のような文章が添えられていました。在宅医療にかかわる医師であるわたし自身が「人生会議」に向き合う時に、大切な指針のひとつとしている一節です。
彼女は「言葉」では何も話さない。
でも、彼女のしぐさと表情を、
彼女のことを大好きな人たちで
一生懸命受け止めて、一生懸命考えて、
ひとつひとつ、丁寧に選んでいく。
だから周りが勝手に決めたんじゃない、
彼女が決めているんだ、と確信できる。
これも「人生会議」のひとつのカタチ言葉はなくても 囲んで話すと想いが見えてくる
ご自身での意思表示や意思決定が難しくても「人生会議」は必要です。
自分で決める力(自己決定能力)というのは、人が自身の人生の物語を生きることの中の一部の要素でしかありません。
自分で決めてそれを表現することが難しい状況であっても、その人には希望・意向がある。
希望・意向を持つことが難しい状況であっても、その人はそこに存在し、いのちあって生きているのです。
「人生会議」とは、そこに注意を向け、その存在やいのちと向き合うこと、「生き切る」を考えることでもあると思います。
新型コロナウイルスの感染拡大で、いままで当たり前のように感じていた大切なひととのつながりや、生と死のことを、身近に感じることはありませんでしたか?
年末年始、ご家族や大切な人と過ごす機会があったら、ぜひ「人生会議」してみてください。
●この記事を書いた人
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