がん細胞を狙い撃つ、放射線治療

がん細胞を狙い撃つ、放射線治療
学びの部屋 放射線治療アイキャッチ画像

「放射線治療」というものをお聞きになったことはあるでしょうか。放射線治療とは手術、化学療法、免疫療法と並ぶ「がん」の標準治療のひとつです。
 「がん」はいまや日本国民の2人に1人がかかる病気。決して他人事ではない「がん」の代表的な治療法である放射線療法について、そのメリットとデメリット、適するがん種や副作用についてご紹介します。「びょうき学びの部屋」の第8回目です。

Q なぜ放射線でがん細胞をやっつけることができるのですか。

放射線でがん細胞のDNAに傷をつける。

わたしたちのカラダは無数の細胞でできています。一つひとつの細胞はその中心に「核」があり、そこにはDNA(デオキシリボ核酸)という、その細胞のはたらきについての情報が記録された遺伝子が存在します。

がん細胞とは、人間の通常の一部がなんらかの理由で傷つき異常に増殖するなど、本来とは異なるはたらきをするようになったものです。放射線は、このがん細胞のDNAを切断し、がん細胞を攻撃するのです。

放射線のチカラ

紫外線よりも波長の短い(エネルギーの高い)放射線は、人体の中に入っていくことができます。そしてその放射線の線量が大きいほど、放射線が通った組織に影響を与え、まわりの原子や分子を励起したり、電離させたりします。それらの効果が細胞のDNAに損傷を与え結果として腫瘍細胞を死に至らしめます。

放射線治療のしくみ

放射線治療は、放射線自体ががん細胞に対する特別な作用をもっているわけではなく、放射線が当たった組織が何らかのダメージを受けることを利用します。

正常な細胞は、がん細胞よりもかなり早い速度で組織を修復することができます。放射線によりがん細胞周囲の組織を攻撃すると、正常組織はがん細胞よりも回復が早いので正常細胞の損傷は少なくなります。しかしがん細胞は回復がゆっくりであるため、回復が追い付きません。そのため正常組織を維持しながらがん細胞を小さくし、消滅させることができるのです。

そのためには、正確にがん細胞の位置を把握し、一方向から強い線量を与えるのではなく、多方向から弱いエネルギーを照射し、標的のがん細胞を消滅させたり小さくしたりします。

放射線治療の得意分野

放射線治療の得意分野は大きく2つあります。

1)根治・再発予防

がん細胞にピンポイントで放射線を照射し消滅させることを狙います。
 また手術でがんを切除しきったように見えても、顕微鏡レベルでがん細胞が残っている可能性もあり、病巣に放射線を当てることで再発リスクを低減させます。

2)疼痛緩和

がん細胞が全身に転移すると強い痛みや血流障害などによる症状が生じることがあります。
 その症状を和らげる目的でその部分に放射線を当て、緩和する治療です。

Q どんなふうに治療するのですか。

放射線治療の選択について

がんの種類によって、放射線が効きやすいもの(感受性が高い)とそうでないものがあります。そのほか、がんの大きさ、部位(がん細胞の周辺にどのような機能をもった臓器があるかなど)、他部位への広がり、患者さんの全身状態などを総合的に勘案し、放射線治療を選択するかどうかを決めます。

大同病院の場合は、日本放射線腫瘍学会認定医・放射線治療専門医が担当し、放射線治療の適応についての診断、CT撮影を用いて、治療場所やどのように照射するかの治療計画作成を行います。

また、放射線治療に化学療法などを組み合わせたほうが良い場合、あるいは放射線療法よりも適切な選択肢がある場合には、それぞれの診療科の医師と連携し、患者さんにとって最適な治療方法を考えていきます。

 

放射線治療機。照射の痛みはありません

CT画像をもとに照射部位を決めます

治療は毎日

多くの場合、放射線治療は毎日行います。放射線の照射量はがんの部位や患者さんの状態にあわせて総線量を決め、それを分割して当てていくのです。1度に照射する放射線の量と、がん細胞の増殖のスピード、まわりの正常細胞の回復度合いなどから総合的にみて、最適だと考えられる、学会ガイドラインに定められた照射頻度を採用しています。

治療期間は病状に応じて変わりますが、だいたい2~3週間であることが多いです。
 毎日来院するのは大変だと思いますが、そんな患者さんのお気持ちを少しでも和らげられるよう、スタッフ皆でサポートしています。治療時間はできるだけ短時間(2日目以降は10~15分くらい)となるように行い、毎日の変化や体調などを、看護師や放射線技師が観察しています。女性の患者さんには、女性技師が整位などの対応をしています。定期的に放射線治療の専門の医師による診察も行います。

放射線治療でとても重要なのは、正確な位置に照射することです。画像診断を行い、位置情報を分析しながら、照射位置をコンピューター制御するほか、正確な位置に照射できるよう装具を使って固定して行います。装具は治療部位によって異なり、患者さんの負担ができるだけ少なく済むよう、お一人おひとり専用のものを作成し、できる限り短時間の使用に努めています。

 

頭頚部固定用シェル

頭部定位放射線治療用固定具

副作用について

放射線の照射による痛みはありませんが、副作用は出る可能性が高いです。放射線療法では、大きく分けて2週類の副作用があります。ひとつは放射線が当たった場所での炎症、もうひとつは全身状態に関するものです。

例えば、頭部への照射では放射線のあたっている場所のみ髪が抜けます(髪全体が抜けるのは化学療法です。なぜなら、薬剤が血管から頭皮の毛穴にまんべんなく作用するからです)。

腹部への照射では、腸などが影響を受け吐き気や下痢が生じることがあります。肺への照射なら、部分的に肺の機能が落ちることがあります。しかし正常組織がほんの数パーセント阻害されるとしても残りの大部分の機能を全力で守る、というのが放射線治療の使命です。

全身の倦怠感やだるさを、生じる場合もありますが、これは病気が悪化していたり、放射線による治療効果がないからではありません。治療中の体調には波が出るのが普通ですので、スタッフはきめ細かく患者さんの様子に目を配っています。

ほかにもまれに放射線治療開始後数日間、船酔いのような症状が現れることがあります。これを「放射線宿酔」といい、通常は数日で症状が軽快します。無理をしないことが大切です。

記事監修: 医師 太田剛志

大同病院 放射線治療科

大同病院 がん相談支援センター