心臓が悲鳴をあげている! 急性冠症候群

心臓が悲鳴をあげている! 急性冠症候群

ある病気になったとき、その疑いがあるといわれたとき、今後自分はどうなるのか気になりますよね?
さまざまな病気について、なおし方やつきあい方を医師がやさしく解説するびょうき 学びの部屋シリーズ。

第3回は「心臓が悲鳴をあげている! 急性冠症候群」というテーマでお届けします。


 

急性冠症候群とは?

 
 心臓は、休むことなく1日に約10万回も拍動して血液を送り出していて、多くのエネルギーを必要とします。その心臓を動かす筋肉(心筋)に栄養や酸素を送っている血管を「冠動脈」といいます。

急性冠症候群とは、冠動脈が血の塊(血栓)によって狭くなったり(狭窄)ふさがったり(閉塞)して、心筋の血液が不足した状態をいいます。冠動脈が詰まったままでは心筋細胞が壊死するため、急ぎ治療が必要です。
 日本人の死因はがんに次いで心疾患が多く、その代表例とされる病気です。

急性冠症候群は主に「不安定狭心症」と「急性心筋梗塞」に分けられます。

「狭心症」は聞いたことがある方も多いでしょう。そのうち、階段を上るなど心臓に負荷がかかったときに一時的に胸の痛みや動悸などが起こるものは「労作性(安定性)狭心症」といい、急性冠症候群ほど重篤ではありません。
 しかし、急に症状が出た場合や、もともとの症状が悪化した場合(頻度が増える、症状が出る時間が長くなる)、安静時にも胸の痛みなどがみられる場合は、「不安定狭心症」を疑う必要があります。冠動脈が血栓によって詰まりかけており、近いうちに血流が完全に途絶える恐れがあります。

 
 血栓が冠動脈を完全にふさいで血流が途絶え、心筋の壊死が始まっているものを「急性心筋梗塞」といい、一刻を争う危険な状態です。最悪の場合、突然死に至ります。

典型的な症状は、胸やみぞおちが締め付けられるような、あるいは押しつぶされるような激しい痛みです。まさに“心臓の悲鳴”といったところ。胸痛は安静時でも5分以上(不安定狭心症なら15分未満、急性心筋梗塞なら15分以上)続くうえに、痛む場所があごや左腕などに広がることもあります。
 また、呼吸困難、動悸・息切れ、吐き気や嘔吐、失神、冷や汗がみられることもあります。

一方、糖尿病の方や高齢者は痛みが出にくく、倦怠感や胃の不快感として現われることもあります。これらの方で心疾患のリスクを指摘されている方は、激しい痛みがなくとも突然の冷や汗やだるさを感じたら、急性冠症候群を疑う必要があるでしょう。
 

こんな人は要注意!

冠動脈を詰まらせる血栓は、なぜできるのでしょうか。

 
 動脈の壁にはもとより、コレステロールなどの脂肪性物質(アテローム)が薄くついています。動脈硬化は、アテロームの蓄積が進んで隆起した病変(プラーク)となり、血管が硬く弾力性を失った状態をいいます。プラークは破れたりちぎれたり傷ができやすく、傷から血小板を固める物質が出て、血の塊(血栓)ができるのです。血栓がさらに大きくなると、血管の狭窄や閉塞が起きます。

動脈硬化の進行

急性冠症候群は、動脈硬化がかなり進んで起こるもの。そのため、動脈硬化の危険因子である肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙習慣などにあてはまる方は要注意です。遺伝加齢など避けられない要因もありますが、生活習慣病が最大のリスクだと思ってください。
 

検査から治療まで

心筋の壊死の有無や損傷場所を調べるため、まず心電図検査を行います。また、超音波検査を行ったり、損傷を受けた時に出る物質の血中濃度を血液検査で測ったりします。より正確に診断するため、カテーテルという直径約2~3mmの細い管を血管内に通して調べる検査を行い、必要に応じてそのままカテーテルで治療します。

その他の治療法として、薬物療法、バイパス手術などがあり、冠動脈の詰まり具合や緊急度、発症からの経過時間などに応じて選択します。

薬物療法では、血栓を溶かす薬、血栓ができるのを防ぐ薬、心臓の負担を減らす薬などが使われます。
 

カテーテル治療は、発症から2時間以内を目安に、病院到着後90分以内をめざして行われ、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)という手法をとります。PCIでは、脚のつけ根・腕・手首などの血管から冠動脈に向けてカテーテルを通し、先端に取り付けたバルーン(風船)を膨らませて詰まった血管を押し広げ、再び開通させるのが基本です。ステントという筒状の金属網を留め置いて、再び狭窄しないように内側から補強することもよくあります。これらをX線血管撮影装置や血管内超音波装置で細部を確認しながら正確に行います。

バルーンとステント

バイパス手術では、全身麻酔下で胸を切開し、詰まった箇所に迂回路(バイパス)を作ります。緊急性の高い急性冠症候群の治療で行われることは多くありません。

治療後はすぐに元の生活に戻れるわけではなく、血栓ができるのを防ぐ薬は終生飲み続けなければなりません。また、壊死により心機能は低下していることから、安全に日常動作ができ、体力を回復させ、再発を予防するための心臓リハビリテーションも行います。心臓の動きをモニターで確認しながら、理学療法士らのもとで段階的に動作を確認し、運動量を増やしていくことになります。
 

急性冠症候群にならないためにできること

何よりも生活習慣を見直すことで、急性冠症候群のリスクを下げることができます。適切な食習慣や運動習慣、禁煙、節酒に努めましょう。動脈硬化は自覚症状がないまま進みやすいので、定期的に健康診断や人間ドックを受け、結果に応じて生活習慣を見直しましょう。

また、冬に温かい場所から寒い場所に移動したとき、温度差から血圧が急上昇して、血管に大きな負担がかかることにも注意が必要です。

さらに、カテーテル治療を受けて血管内にステントが置かれている方の中には、再び血管が狭くなったり、ステントに血栓がついたりすることがあります。治療後も生活習慣を改善し、血栓ができるのを防ぐ薬を処方されたらきちんと飲むなど、医師の指示に従って再発を予防することが大切です。

急性冠症候群になったら、救急車を呼ぶしかありません。そうならないために、胸の痛み(圧迫感や締め付けられている感じ)を感じたら、安静時に収まっても、循環器内科の受診をおすすめします。
 

当院の急性冠症候群治療の特徴

急性冠症候群の治療の多くは一刻を争うもの。当院では、学会認定の循環器専門医が複数在籍しており、カテーテルの検査・治療の経験が豊富なスタッフを揃えて24時間対応できる体制を整えています。

 
 迅速な対応によって生存率やその後の経過をより良くすべく、病院到着前から準備と診断を始められるように法人所有のドクターカーも活用しています。機器や設備も充実しており、高精度のX線血管撮影装置を導入して、より正確で被ばくの少ない検査・治療が可能です。

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)

治療を受けた患者さんは、生活や運動への不安をなるべく抱かずに退院したいし、早く社会復帰したい、再発してほしくないと願うもの。それを受け止め、心臓リハビリの専門性を持つ理学療法士らが、入院中の早くから安全で再発予防も期待できるリハビリを提供し、心機能回復をサポートしています。

健康診断では、人間ドックのオプションとして、動脈硬化検査を追加できます。

記事監修: 医師 近藤和久

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