やめられないタバコが原因!? 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
ある病気になったとき、その疑いがあるといわれたとき、今後自分はどうなるのか気になりますよね?
さまざまな病気について、なおし方やつきあい方を医師がやさしく解説する「びょうき 学びの部屋」シリーズ。
第7回は「やめられないタバコが原因!? 慢性閉塞性肺疾患(COPD)」というテーマでお届けします。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは?
想像してください。日々の生活において難なく息ができる、そんな意識もしない当たり前が、当たり前でなくなる・・・。それがこのありふれた病気で起こること。
「慢性閉塞性肺疾患(COPD, Chronic Obstructive Pulmonary Disease)」は、タバコの煙などの有害物質がもとで肺が炎症を起こし、呼吸がしにくくなる病気です。40歳以上の日本人の中でCOPD患者はなんと530万人(2001年時点)と推定されていますが、大半は診断されておらず、医療機関を受診していません。
● 肺のしくみと呼吸
ご存知のとおり、肺は呼吸を担っています。
鼻や口から吸い込んだ空気(吸気)は、通り道である気管と、途中で左右に枝分かれした気管支を通って肺へ至ります。肺ではさらに網目状に分かれていて、先端には袋状の肺胞があり、ブドウの房のような構造をしています。肺胞を取り巻く毛細血管で、酸素を取り入れて二酸化炭素を排出するガス交換を行った後、来た道を戻って吐き出す(呼気)。これが呼吸です。当たり前の姿です。
● COPDになると・・・
ところが、タバコの煙や大気汚染による有害物質が長い間肺を刺激すると、細い気管支に炎症を起こし(細気管支炎)、咳や痰が増えます。やがて気管支の内側が狭くなり、空気の流れが悪くなります。有害物質が肺胞に炎症を起こすようになると、肺胞の壁が壊され、古くなったゴム風船のように弾力を失い(肺気腫)、空気をうまく吐き出せなくなります。
細気管支炎や肺気腫によってガス交換がしにくくなると、酸素不足のためすぐに息切れが起こるのです。
進行すると、肺ばかりでなく、心臓病や骨粗しょう症、糖尿病などの合併症を招いたり、身体活動が低下してうつ状態や寝たきりになったりします。肺がんになる確率も高く、命に関わる病気なのです。
COPDは長い年月をかけてゆっくりと進行するため気づきにくく、軽症のうちに治療を始められる人はほとんどいません。しかし肺は確実に壊れてゆき、壊れたら二度と回復しない・・・それがこの病気の怖いところです。
こんな人は要注意!
COPDの原因のトップはタバコです。近年は禁煙が浸透しつつありますが、日本ではCOPDの原因の9割以上が喫煙とされています。
加熱式タバコや電子タバコは、従来型よりも害が少ないと思っているそこのアナタ!これらによる長期的な病気への影響については明らかでなく、短期的には肺障害になり得ることが明らかになっています。COPDになりにくいという科学的根拠はないことを肝に銘じてください。
● 喫煙者はセルフチェックを
自覚症状として、咳や痰が長引く、動くと息切れがするといったことがあります。例えば、40歳以上で喫煙歴が10年以上あり、下記の症状がみられれば、まずCOPDを疑います。
- 坂道などで呼吸困難になる
- 3週間以上咳や痰が続く
- ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音がする
- 風邪をひくことが多い
他に、体重減少やむくみなどが見られることも。
喫煙歴のある方、症状に心当たりのある方、次のセルフチェックをしてみてください。合計4点以上なら早めに呼吸器内科を受診しましょう。3点以下でも、喫煙歴があって症状がある人には受診を、禁煙しようかと思った人には禁煙外来を、おすすめします。
検査から診断まで
スパイロメーターという呼吸機能検査器を使って肺がうまく働いているかを調べます。これにより、自分の肺の呼吸機能がどの年齢の人と同じかという肺年齢などが分かります。
他にも、胸のレントゲン撮影、血液検査などを行い、肺の破壊や炎症の状態を詳しく調べ、ぜん息などの似た症状を起こす病気の可能性を除外したうえで診断します。
COPDの治療と暮らし
● 治療ステップ
何よりも禁煙が大前提。禁煙すれば症状が軽くなるうえに、呼吸機能の低下速度が緩やかになります。なかなかやめられないという方には禁煙外来がおすすめ。保険が適用されます。まずはどんな種類のタバコであれやめましょう。
注意したいのは、ちょっとした風邪などをきっかけに、息切れや咳・痰などの症状が急激に悪化する「急性増悪」。増悪を繰り返すとCOPDが重症化し、入院を余儀なくされることもあります。きっかけの多くは呼吸器の感染症(風邪、インフルエンザ、肺炎など)ですから、手洗い・うがいやワクチン接種などで、感染症予防に努めることが求められます。
また、薬は重要な治療法の一つです。症状にあわせて吸入タイプの気管支拡張薬やステロイド薬を使い、症状を軽くします。
薬によって症状が軽くなったら、医師や理学療法士らの指導のもと、呼吸リハビリテーションを行います。呼吸機能を維持・回復させ、スムーズに息ができるよう、肺などを動かして訓練するのです。身体を動かすと息苦しいため運動に抵抗を感じる方も多いのですが、実は症状を改善するうえでとても大切。呼吸に関わる筋力を柔らかくし、体力を強化して、息切れしにくい呼吸法や動作を身につければ、案外動けるようになりますよ。
さらに、肥満もやせも息切れを増長しますので、食生活を見直して適正体重にもっていくことが大切です。進行するにつれてやせて体力が落ちてくる方が多いので、十分な栄養を摂るようにしましょう。
● COPDを抱えても暮らしを諦めない
息切れがひどい方でもなるべく身体を動かして日常生活を送れるよう、呼吸リハビリとともに在宅酸素療法を行うことがあります。これは、家では酸素濃縮器を傍に置き、外出時には酸素ボンベを携帯して、鼻に付けたチューブから酸素を吸入し続けるというものです。不便さは伴いますが、日常生活を充実させることができ、職場復帰される方や旅行を楽しむ方もいます。
当院のCOPD治療の特徴
創立80年以上の歴史があり工場地帯近くに位置する当院は、COPD治療に長年の実績を有しており、通院は月に約100名、入院は年間50名以上診るという県内有数の症例数を誇ります。経験豊富な医師たちが、新しい知見を常に取り入れ、患者さんがより良い暮らしを送れるよう尽くしています。
禁煙外来も設けていますので、自分ひとりではタバコをやめられないという方はご相談ください。
近年はCOPDと気管支ぜん息を併発しているケースが注目されています。COPDだけのケースとは治療法が違うことに注意が必要であり、当院では、迅速かつ適切に検査・診断を行って、個々の症状にあった治療法を提案しています。
在宅酸素療法をされている方へのフォローとして、患者会を開催しています。(コロナ禍において休止中)
また、入院治療をされた方には、呼吸リハビリの専門性を持った理学療法士がサポートします。
最後に、呼吸器内科医からのメッセージを。
安くないタバコ代を払って、肺を壊し、当たり前に息ができる日常を捨てることはありません。何度か失敗しても、今さら遅いかなと思っても、諦めないで。すべてはこの先にある“禁煙達成”へのステップです。始めましょう、禁煙を。お手伝いしますよ。
記事監修: 医師 沓名健雄
-
前の記事
ピロリ菌を撃退せよ! 胃炎・胃潰瘍 2021.02.19
-
次の記事
がん細胞を狙い撃つ、放射線治療 2021.04.23